夜は短し歩けよ乙女

★★★★☆(おもしろい)
森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」を読みました。同じサークルの後輩、黒髪の乙女である「彼女」のことが好きで好きでたまらない「先輩」が、彼女に近づこうと悪戦苦闘する様を特徴的な文体で書いた小説です。

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

文体と世界観が特徴的で、大正や明治あたりを舞台にした話かと思わせておきながら携帯電話が普通に出てきたり、せきをするだけで竜巻を起こす老人が出てきたりします。中身はファンタジー色の強い恋愛物語で、舞台を異世界かヨーロッパにするだけでラノベに分類してもいいかもしれないくらいです。うん、そう、秋山瑞人の作品に近いかもしれません。
「先輩」か「彼女」の一人称で物語がすすめられていくのですが、「先輩」の話の際は である調 で無骨な男子学生を演出し、「彼女」の話の際はですます調と感嘆符で文章がつづられ、時折出てくる「なむなむ」、「おともだちパンチ」といった不思議単語とあわせて、天然系のかわいらしい女学生を演出しています。
そう、まるでブログのようなこれが、実にかわいらしいんです。この「彼女」のかわいらしさがこの作品の一番の魅力といって間違いありません。願い事をする際に、手を合わせながら「なむなむ」などと口にする女子大生が現実の世界にいたのならば、かわいいと思いながらも、その女性を白い眼で見てしまいます。うわぁ、こいつ天然ぶってるよ、と。ぶりっこ大好きな僕としてはそれでも無問題なのですが、世間はぶりっこに厳しく、同姓異性問わずに迫害を受けることでしょう。
しかし、この作品では違います。この作品の世界では、「先輩」か「彼女」の一人称でのみ語られる世界では、「彼女」が本当の天然で、それをただかわいいと評することが許されています。そのため読者である僕も、「彼女」に対しては手放しでかわいいと言えるわけです。一人称の素晴らしさに初めて気がつきました。
4章あって、それぞれ、春、夏、秋、冬の出来事が語られています。春はお酒にまつわる話で、僕も偽電気ブランを飲んでみたくなりました。電気ブランは飲んだことがあります。大学の後輩が飲みたいと言っていたのも、この本の影響に違いありません。夏は古本市での話。今度、神保町に行ってみます。秋は学園祭の話。演劇が見たくなりました。冬は風邪の話。僕も風邪をひきたくなり…はしませんでした。冬の話はイマイチでした。3章までなら満点だったのですが、4章で評価が下がりました。なかみ作戦にあんなに一生懸命だった「先輩」が風邪で倒れ、グルグルと思考の渦にはまってしまう様が読んでいて面白くなかったです。長編なら落としてから上げるので全然盛り上がられるのですが、短編構成にしたのならばあのままリズムよく最後までいって欲しかったです。
なんにせよかなりお勧め。森見登美彦の作品はこれが初めてだったので、引き続き文庫になっているものは読んでみようと思います。